理事長挨拶

びわこ学園医療福祉センター草津 施設長 口分田政夫

理事長 口分田政夫

2022年12月に日本重症心身障害学会の新しい理事長に選出されたびわこ学園医療福祉センター草津の口分田(クモデ)政夫です。就任に当たり、挨拶をさせていただきます。

日本重症心身障害学会は、島田療育センター創設の小林提樹先生が重症心身障害研究会として1975年に創設され、初代の会長を担われました。その後、行政の立場で、小林先生を支援されてきた大谷藤郎先生が会長を引き継がれました。そして、小児神経学の造詣が深い有馬先生が、会長として代表を継承されました。1996年(平成8年)に日本重症心身障害学会と改称し、有馬理事長のもとで、重症心身障害支援に関わる多職種で構成される学会として大きく発展しました。有馬先生勇退後、伊東宗行理事長に引き継がれました。伊東先生は、学会に将来構想委員会を設置され、次世代に通用する組織改革に取り組まれ、新しい規則細則を制定されました。こうした新制度のなかで、評議員、理事が新たに選出され、2022年新理事の互選で口分田が理事長に就任しました。

会則に「本会は重症心身障害に関する学術・研究の進展とその知識の普及を図り、もって人類の福祉の向上に寄与することを目的とする」と定めてあります。この精神は脈々として、当学会に継承されてきており、時代は変わっても、この目的の重要性が増してきています。

重症心身障害児者は、現在、公法人立施設に約14000人、国立病院機構重症心身障害病棟に約8000人、在宅で約57,000人(滋賀県の令和3年人数より推定)、合計79,000人程度と推定されます。また、全国の医療的ケア児は、約20,000人(令和3年)といわれており、そのうち約7割が重症心身障害に該当する方です。重症心身障害のへの支援は、まさしく今日的にも重要なテーマとなっています。

発足当時の会員は230名でしたが2022年11月現在2,200名に達し、職種は医師、看護師・保健師、理学・作業療法士、言語療法士、管理栄養士、教育・保育・心理・療育・介護福祉等の専門職、大学の研究者など多岐にわたっています。各領域から学術研究、実践報告等が学術集会および毎年3回定期発行の本学会誌に公表されています。また、社会的問題解決にも、学会として取り組んできており、2020年には、利用者や家族等の介護者の要望を受け、経腸栄養分野における新規コネクタ問題プロジェクトチームを設置し、全国調査や検証研究を実施しました。その結果、旧規格の併存使用を期限を区切らずに認めるという厚生労働省通知の発出につながりました。

2022年12月、東京で開催された学術集会では、重症心身障害という言葉のルーツについて言及がありました。島田療育園創始者、小林提樹先生、びわこ学園創始者糸賀一雄先生は、当初心身障害でいこうと、合意されていました。しかし国の検討会で、施設を病院形態とする考え方のなかで、医療の支えが必要であるという概念をいれるために、重症という言葉が加えられ、重症心身障害という言葉が誕生したということでした。重症心身障害という言葉には、60年以上も前に、すでに、今日的課題である医療的ケア児の概念が、先行して取り組まれていたのです。

重症心身障害をめぐるテーマは多様性にとんでいます。呼吸の問題、栄養の問題、摂食嚥下▪︎消化管の問題、てんかんや筋緊張の問題、骨折など整形外科的問題、リハビリ、療育、教育▪︎心理、発達、終末期ケア、地域支援、制度、支援理念等々です。学会活動を通じてこうした多様な分野の研究報告と議論を活発にしていきたいと思っています。

学会運営方針として考えていることは、大きくは以下の2点です。一点目はトップダウンのリーダーシップではなく、会員の皆様に共有されているリーダーシップをいかし合う学会にしていきたいということです。そのためには、目的や課題別の委員会を設置して、学会役員がリーダシップをとる中で、会員の皆様に参画いただき、会則の目的である人類の福祉向上のための、研究報告や提言につなげる活動を実施していきたいと思っています。

2点目は、境界を越えていくリーダーシップを大切にしたいということです。この学会は多職種で構成されている多様性の可能性と潜在力をいかせる学会だと思っています。重症心身障害と人類の幸せのために、職種を越えてつながっていく、学術的な専門領域を超えてつながっていく、時に国や民族、文化を超えてつながっていく、そのような学会に発展していくよう、皆さま方のご協力をお願いしたいと思います。

この学会の目的である「人類の福祉の向上」という言葉に、びわこ学園の創始者、糸賀一雄の「この子らを世の光に」という言葉が重なってきます。重症心身障害の一人一人が、人との関係のなかで充実して生き抜く姿は、すべての人たちの光、すなわち希望につながっていく、そしてそれは社会の変革につながっていくという福祉の思想です。学会活動を通じて、この「人類の福祉の向上」という学会の理念実現を目指して一歩一歩、皆さまと一緒に歩んでいければと考えています。関係者の皆様のご支援をお願いしたいと思います。

理事長 口分田政夫

このページの先頭へ