理事長メッセージ
Message
理事長 口分田 政夫
2025年、日本重症心身障害学会は創立50周年という節目を迎えました。この半世紀は、重症心身障害児者の医療・福祉の歩みとともにあり、制度の狭間で声なき声に寄り添い続けた実践と思想の歴史でもあります。
本学会の原点は、1975年に開催された「重症心身障害児研究会」にあります。創設者・小林提樹先生は、戦後の混乱期に重度障害児の医療に取り組み、島田療育園を創設。制度の支援が乏しい中、両親を中心とする家族たちや民間の力を結集し、日本初の重症児施設を築きました。その後、財政支援が乏しい社会的状況からの施設運営の困難さに直面しました。こうした状況を反映して、施設内での労使の対立もあり、施設を去られました。しかしそのような中でも、小林先生は「知を集め、志を継ぐ場」として、研究会の必要性を自分の使命と感じ、日本医師会会長 武見太郎氏の応援も受けて、重症心身障害研究会を立ち上げられました。これが現在の日本重症心身障害学会へと発展しました。
本学会は、医療・福祉・教育・行政の垣根を越え、重症心身障害児者の「いのち」と「充実した生活」に向き合う専門職の連携を促進してきました。糸賀一雄先生の「この子らを世の光に」という哲学、小林先生の「愛と実践」の精神は、今日の支援の根幹に息づいています。
この50年で、医療技術は進歩し、制度も整備されました。学会活動を通じて、学術的治験の集積や多職種による支援のネットワークが形成されてきました。しかし、私たちが向き合うべき課題は今もなお複雑で、支援のあり方は常に問い直されるべきものです。重症心身障害児者の存在は、共生社会への成熟度を映す鏡であり、「共に生きる」ことの意味を私たちに問いかけ続けています。
本学会は、これからも実践と研究の両輪を大切にし、現場の声に耳を傾けながら、現状のケアや技術、制度に安住することなく、支援の質と倫理を問い続ける場でありたいと願っています。そして、次の50年も、障害のある人々の尊厳と可能性を中心に据えた社会づくりに、ひいては人類の福祉の向上に貢献してまいります。
創立50周年を迎えるにあたり、これまで学会を支えてくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます。ともに歩んだ年月を礎に、未来へ向けて新たな一歩を踏み出しましょう。